伝えるしかない

デザインやディレクション、はたまた音楽などの創作物や創作事を、頼まれてもいないのに自分で解説をするという事に感じる違和感は、1987年生まれという微妙な昭和世代によるものや、中途半端なプライドが邪魔している気がする。今の時代はとっくにセルフプロデュースで、みんな自分で自分の事を撮り、編み、発し、論じ、応じ、そしてそれを繰り返している。と前置いてしまうのもどうかと思うが、いくつか論じてみたいと思う。

 

今年(2021年)は中川昌利さんの作品に沢山関わり、製作を行った。

3月に「きらり」MUSIC VIDEO。


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スケジュール帳を見ると去年(2020年)の12月23日に下北沢にて打ち合わせを行っており、その時点ではかなり自分の中で完成像は見えていたつもりでいたが、その後は難航し、何度も深夜に中川さんに電話をしては糸口を探した。

コロナ禍において、人と会う時のリスクを考えた時に、当然知らない人よりも、知っている人に会う方がリスクを軽減できると思う。沢山の人と接触していそうな人や医療従事者とは会うのを控えたり、会う際の対策も、知っている間柄の方が、色々と言いやすい部分もあるだろう。

しかし知っている間柄だからこそ、もし感染をしたりさせたりしたときの責任への不安もある。そういった気遣いのストレスから、誰とも会わなく、気持ち的にも会えなくなってしまっている人が居るのではないかと思った。その中で逆に全く知らない人となら、責任も、不安も、逆に宙に浮いていて、どう思われようが関係なく、会いやすいと考えた女の子が、マッチングアプリで男と会っていく、というストーリーに行き着いた。物語の過程も結果もあまりわかりやすくどこかに着地させる事なく、映像的には、出雲にっきさんの醸す雰囲気と相まってレトロな質感は出しつつも、マッチングアプリという現代の設定を入れ込んで、今の街と女性と、その世界全体をぼんやりと照らすようなイメージで製作を行った。

 

 

 

次の「i'm not in love!」の配信ジャケットとMUSIC VIDEO。

I’m not in Love!

I’m not in Love!

  • 中川昌利
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 


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爽やかなネオアコも感じるアップテンポなナンバーで、ジャケットでは歌詞の中のキックボードに乗った中川さんを、撮影しようと思い、彼の地元で猛暑の中、汗だくになりながら僕が写真を撮った。写真には質感を後から乗せることも出来るが、敢えて大学時代に買った今丁度誰も使っていないような型落ちのデジタル一眼レフを使用して、いい感じの階調の無さを狙った。良い写真はいっぱい撮れたが、結果ジャケットは撮影終わりになんとなく撮った転がってるキックボードの物撮り写真になったけど、最初はジャケットだけの依頼だったが、MVも作ろうという話になり、その中でテレビ画面に写真を写したスライドショーの演出を取り入れて、良い感じに再利用した。白ホリで演奏シーンという微妙にダサい懐かし目の感じを、8mmビデオとBMPCC6Kproをリグで繋げて同時撮影し、パチパチッと編集した。

 

 

そして配信ジャケット「Machibari〜きえないアイラヴユー〜」

Machibari〜きえないアイラヴユー〜

Machibari〜きえないアイラヴユー〜

  • 中川昌利
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

タイトル候補や歌詞、曲のイメージから、もうパッと履き古した靴にまち針を刺そうと直感的に浮かび、そのままビジュアル化した。物撮りはどうにでもなりすぎて答えがわからなくなりがちなのと、強度と空気感をしっかりさせたかったので、写真家の坂本理に撮影を依頼した。靴探しから撮影地模索まで結構難航したが、夕方日が落ちる前のギリギリに見つかり、光の具合含めて結果オーライ的なものが撮れて良かった。正式タイトルが納品後に決まったので、もしかすると、このちょいダサめなサブタイ含めて、手書き文字とかで入れても可愛かったかもしれないという説もあるが、逆にここまで潔くただの写真に出来ることもそう無いので、結果オーライ的なのかもしれない。

 

 

最後は先日発表されたばかりの「藍のハンケチ」の配信ジャケットと、カセットのパッケージデザイン、そしてMUSIC VIDEO。

藍のハンケチ

藍のハンケチ

  • 中川昌利
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes


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今年を締めくくるに相応しい、今年の全てを巻き込んでどこか遠くへ飛んで行った後に帰ってきてしまうような、どういう例えかわかりませんが、とにかく大名曲です。

ジャケットは、今のこの世界を撮ったどんな写真イメージもこの曲に匹敵するものは無いと判断し、10年以上前に撮って、CD-Rに焼いてファイリングしてある膨大なスナップ写真からセレクトして、デザインした。僕が中川さんの楽曲を聴いた時によく感じる、無い過去の記憶が蘇ってくる感覚を、過去に僕の前に現れた光景でありながら、もう写した時の記憶はない画像が、誰かにとっての記憶になりうるのではという事に当てはめてみた。

音源はもしかすると配信の方が情報量は多いかもしれないけど、カセットの方が画像イメージの情報量は多いので、是非通販などもあるので、お手にとって頂けると幸いです。

MUSIC VIDEOは、新幹線の窓を1カットで撮影したものに、歌詞のみをシンプルに載せたビデオ。それほど重要な事では無いですが、これは依頼されて作ったものではなく、大阪への出張の帰りに酒気を帯びていた僕は、イヤフォンで「藍のハンケチ」を聴きながら、ふと傍らの空席であるE席D席側の窓を見ていると、様々な感情がこみ上げてきて、背中がピリピリとなって痒くなるような感覚を鎮めようと、ショルダーバッグに入っていたGRIIIxを取り出して、そのまま録画ボタンを押し、そのままテーブルにパソコンを出してテロップを入れて、酔いが覚めてから見直して、そのまま中川さんに送った。

僕は映像作家とかクリエイターというよりは、いわゆる商業としての映像ディレクターとして、クライアントから依頼された内容に対して、どれだけ正解に近い解答を出せるかというような事ばかりをやってきたタイプの人間で、それで良いとも思ってはいたが、どこかで自分の映像を作るという事をやってみたいと思うべきなんじゃないかという、セルフ負い目を背負っていた節もあった。そんな中で、もちろんこれまで作ってきた映像のほとんども、自分なりの作品で気に入ってはいるが、この作品は僕にとって、初めての「自分の作品」と言えるものになったように思える。大変な世の中はなかなかその大変さを変えようとはしませんが、この年末年始の時間許す時があれば、是非ビデオを最初から最後まで見て頂けると幸いです。

良いお年を。