不完全な日々

朝、車を走らせて作業場にしている学校の準備室へと向かったが、急いでいていつもは使わない高速道路のルートで行こうとしたら、朝の開かずの踏切になんと40分も捕まった。作業場で参加しようと思っていたリモート会議には絶対に間に合わないので、どこかで車を駐車して参加しようとするも、それだと逆に少しだけ時間が余ったので途中で給油する。ガソリンスタンドに入ると女性の店員さんが、今エネオスアプリで登録するとリッター5円安くなるクーポンがつきますと言ってきた。あまり時間は無いので断ろうとしたが、リッター5円はデカすぎる。少し迷ったが登録を承諾する。しかしそこから始まる手続きの嵐。みるみる時間は減っていき会議間近。給油後逃げるように退店し、すぐ近くに急いで停車。見事に最後の入室で平謝りしながら打ち合わせを済ませた。

急いで作業場に行く理由も無くなってしまったので、いつもと違う下道ルートを走っていると、年末に時間のない中急いで見た大きなリサイクルショップを通る事を気づき、寄ってみることにする。昨年から狭いリビングにソファーを置くことをやめたが、やはりコンパクト目な微2シーターくらいの低いソファーを置きたくて探しているのと、前来た時に見た、小さな白い棚をリビングの端っこに置いてDVDやCDを入れたら良いのではと思ったからだ。

店に入るとオープンしたてで店員さんはバタバタとモノを動かしたり、パソコンに向かって忙しそうにしていたりで居心地が良い。気になっていた白い棚は別の場所に移動していて、DVDが沢山収納されていた。売れないから店内什器になってしまったのかと思ったが、後ろを見ると値札を発見。16000円、記憶より高い。今月は車の点検でめちゃくちゃでかい出費があったので流石に諦める。また余裕がある時に寄れたら、そしてまたあったらね、と再会を約束し帰ろうとしたとき、DVDの棚にShall we ダンス?のDVDを発見する。最も好きな映画の一つで、何度も繰り返しみて、少し前もサブスクで見たばっかりだった。特別版で、特典映像も入っているようで、迷わず手に取る。700円。これは買いだとレジへ。満足した気持ちで車を走らせ、作業場で確定申告へ向けた書類を整理し、夕方帰路へつく。夜早速映画を見ようと思うがDVDを入れるのが面倒だったので、サブスクで良いやとリモコンとポチポチと押すも、見放題からは外れていて見れなくなっている。貧乏性の僕はなんとなく嬉しい気持ちになりながらDVDをプレイステーション3に挿入し、映画を鑑賞。相変わらず名作だ。下心からダンスを始めた役所広司さん演じる主人公が、先生にその事を独白するシーンは何度見ても最高だ。こうして文章を書いている今も、白いシャツ、スラックスのシルエットまでありありと目に浮かぶ。

昔から思うのは、モテたくてバンドを始めるとか、背伸びして本を買うとか、そういった下心というか、本来の目的とは違う理由で始めた事から、その心が抜けて、行為自体が残ってしまった事に、僕は純粋さを感じる。もちろん正しい理由も良いけど、僕は自分自身を汚い人間だと思っているのか、それはキレイ過ぎるように感じるのかもしれない。だからこのシーンの独白は、その瞬間を自認して、かつそれをその人の前で告げるという、すごいシーンだ。そこに僕は美しさを感じる。はい。ラストのダンスシーンは言わずもがな最高。心が熱くなる名作です。

そんな次の日、あいにくの雨。今日は家でじっくりと仕事をしようと、軽くリビングを片付けて、洗濯も脱衣所に干して除湿機をオン。しかし時計を見るとギリギリ新宿でやっているパーフェクトデイズという映画に間に合う事に気づく。前から観たいと思っていたが、とある撮影に向けて観ておきたい所もあり、フード付きのジャンパーを被り、自転車を飛ばして駅まで向かい、電車に飛び乗る。祝日という事もあり席はほとんど埋まっていたが、なんとか滑り込み、映画は始まる。役所広司さんが主演の静かな映画。そこでふと思い出す。昨日Shall we ダンス?を観たことを。映画は素晴らしかった。僕の父親も青い軽のバンに乗って仕事をしていて、映画が終わったら父親にメールして、この映画を観ろと言ってみようかなと思う。(今もまだメールはしていない)またフードを被り新宿の街を歩く。僕は僕なりにCONTAXのデジカメで写真を撮る。思い出横丁で天玉そばを食べる。友達に映画の感想を送る。仕事を手伝ってくれているスタッフに相談を送る。

雨も降っていたので、少し時間はかかるが家に最も近い駅から帰れる、行きとは別のルートの電車に乗る。朝急いで出てきたのでワイヤレスイヤホンを忘れていて、ただ電車の揺れる音や、車内のアナウンスをぼんやりと聞く。乗り換えで偶然友達に会う。新宿に行くらしい、僕は帰る所だと言って、別れる。

家に着いて、仕事を再開する。あっという間に夜になる。今日は妻が食事を作ってくれるというが、働いているお店も大変そうなので様子を伺うメールをすると、家に油が無かったら買ってきておいてくれと頼まる。自転車で買い物にでかけようと、カッパを着て外に出ると、自転車がない。3秒くらい考えて、朝、なるべく早く新宿に出れる駅まで自転車で行った事と、今も有料駐輪場に停まっている事を思い出し、シンプルな舌打ちをする。幸い雨は上がっていたが、トボトボと駅まで歩く。駅前で油を買って、自転車で帰ってくる。手袋を忘れて手は冷たい。もうとっぷりと日は暮れていて、いいちこソーダ割りを作り、ちびちびと飲みながら、飲みながらでも出来る仕事をする。結局その日は飲みすぎてそのまま床で犬と共に眠りにつき、朝起きるといつも通り暖房の効いた部屋で口はカラカラに乾いていた。僕のパーフェクトとは言えない日々はこれからも続く。