レザーコート

今日駅前のスーパーに買物に出かけた帰り道、ふと見ると商店街の古い金物屋に貼ってある一枚の張り紙に気づく。遠くからでも小さなコロナウイルスという文字が見えて、閉店する旨を告げる告知であることを悟ったと同時に、その横にある手書きの張り紙に目がいった。「革コート千円」分厚い、そして重たそうな革のコートが2着、針金のハンガーに吊るしてある。自転車を止め、痛む足を引きずりながら(一昨日からかかととアキレス腱の間がひどく痛み、足を引きづらねば歩けない)店内に入り、その2着を眺める。

ショート丈の裾にゴムの入ったタイプと、ハンドウォームポケットとパッチポケットがついた4ポケットのハーフコートタイプがある。どちらも中綿と、ハーフタイプは裾の方の裏地はフリースのようになっており、とても暖かそうだ。古着のようでもあるし、ただ吊り下げ続けられて古びたようにも見える。しばらくすると奥からご婦人がゆっくりと出てきてくれたので、羽織っていいかと尋ねる。鏡などないので、反射しそうなガランとしたガラス棚に目をやるが、店内も暗くあまり良く見えない。もう店に入った瞬間から、買おうとは決めていたが、一応ポケットや裏地、品質表示などを見るフリをしたていると(メイドインコリアの文字、渋い)「あまり着ていないものですよ」という声。これはもしかするとご主人のお下がりなのかもしれないと思う。その情報に頷く訳でも、無視する訳でもなくワンテンポ置いて、頂きます、と告げ千円を手渡し、サカゼンの袋に入れてくれようとするのを制して、レザーコートを着たまま外へ出た。

今日は陽気の良い秋晴れで、フリースの上にレザーコートでは暑すぎる。コートを脱いで自転車のカゴに乗せていると、薄暗い店の中から、「ありがとうございます」という声が耳に入る。深々とお辞儀をするご婦人に僕は会釈をしながら自転車のペダルを漕ぎ出した。

このコートはご主人のお下がりかもしれないし、長年の売れ残りかもしれない。はたまたこないだ買ってきたサカゼンのセール品なのかもしれない。だけど僕はこのコートを胸を張っていつまでも着ていたいし、着ていられるような人間になりたい、そう思った。